
フォイヤーシュタイン教授の教育論を構成する4本の柱
2. 媒介学習体験( Mediated Learning Experience)
大人と子供、教師と生徒との関わり合いはすべて媒介ではないか、という疑問が生まれますが、フォイヤーシュタインは、媒介を「認知体系に影響を与え、より高い水準の変容をもたらす性質をもつもの」と定義しています。
熱いものに触ろうとする子供に「だめ、あぶない!」と阻止するだけの働きかけは「媒介」の性質をもちません。なぜだめなのかを明確にし、同じような状況に直面したときに子供が危険を予測できるような働きかけを「媒介」と呼びます
学習体験がどのように行われたか、それが媒介学習の質を決定します。
大人と子供、あるいは教師と生徒などの相互関係を媒介学習体験と呼ぶためには11の本質的な特質が必要である、とフォイヤーシュタンは述べています。そのなかでも次の3つは必須のものです。
1.意図性(intentionality)と相互性(reciprocity)
「意図性」とは、媒介者が設定する「目標・目的」のことをいいます。ある明確な意図をもって媒介者は子どもに働きかけます。その働きかけに対する子どもの反応に応じて、媒介者は自分の「意図」がこどもの中に浸透してゆくのを見極めるために、行動のありかたを臨機応変に変化させます。刺激の強さを加減したり、刺激の順序を効果的に変えてみたり、目的達成のために特に大切な刺激に焦点を当てて提示したりします。これが「相互性(reciprocity)」とよばれるものです。
2.超越性(transcendency)。
ここでいう「超越」とは、「今・ここで」取り組んでいる具体を越えて、さらに広い遠い価値を伝えることをいいます。「大きい・小さい」といった単純な比較行動を教えることでさえ、「自分」と「他」との比較、比較による自己の発見へと導くことも可能なのです。あるいは、フォイヤーシュタイン・プログラムの第1課題である「点群の組織化」では、沢山の点の中から「三角形」を見出さなければなりません。3つの点が三角形を構成することを発見した子どもは、テーブルに座った3人の人が三角形の関係を造っていることを見出したりします。社会性の萌芽です。
3.意味の媒介(mediation of meaning)
「媒介」という行為は媒介者の欲求に根ざした「意味」の追求という性質をもちます。「意味」は文化的な価値観を反映します。日本の美しい習慣である食前・食後の挨拶「いただきます」「ごちそうさま」を教えることは、「食」の背景に存在する労働、自然、あるいはもっと遠く自然を司る「神」などといった抽象概念の獲得にもつながっていくことができます。
今学習していることがもつ意味・大切さを伝えること、それが意味の媒介です。
意味は学習者の内側に入ってゆくエネルギー、愛情、情緒的な力を持っています。
ひるがえってフォイヤーシュタインは、意味の媒介において文化の継承が大切であると言います。北米先住民には認知不全を示す子供が多く観察されるそうです。行動障害、認知障害、そして数多くの自殺者。これは、北米先住民が彼らの文化を奪われたことに原因がある、とする研究があります(エマーソン)。文化を子供に伝えることは、自身のアイデンティティーと価値観を伝えることでもあり、そこには認知構造の発達に不可欠なエネルギー、愛情、情緒的な力があるのですが、それを奪われたときに深刻な認知不全が発生するのです。生きる意味を見失った大人は伝えるべき「意味」を見失った存在であり、それが子どもたちの認知発達に深刻な問題を与えると考えられるのです。これは、現代社会が抱える問題への、フォイヤシュタインの警鐘でもあるのです。
・・・続く