■家庭での取り組みにあたって
知的発達がおくれがちな子供たちにとって、家での学習はとりわけ大切です。
なぜなら家は子供たちの生活の中心となっている場所であり、子供たちと接する時間を一番豊富に持つことができるのは、家族だからです。
ルーヴェン・フォイヤーシュタイン教授は、障害があってもなくても、障害がどんなに重くても、障害の原因がどんなものであっても、何歳であっても、人の認知構造は変わることができる、と言っています。
もし子供が知的な障害を持って生まれてきたことが分かったとき、多くの人が告げられるのは、「子供をあるがまま受け入れなさい」という言葉です。この「あるがままを受け入れる」という言葉は美しいものです。が、言葉の裏には期待してはいけませんという意味が隠れています。
フォイヤーシュタイン教授はこのような今まで優勢的であった考え方に反対をとなえて、知的な発達に遅れを示す子供たちの声を代弁し、「そのままでいいなんて言わないで!」という本を書いています。・・・「私は変容できるよ!!」という叫びです。
しかし、この変容は、ただ待つだけでは起こりません、変容を可能にするもの、それは媒介学習体験です。媒介はフォイヤーシュタイン教授の理論の中心をなすものですが、世界と子供の間に存在する大人が、教えたい、伝えたいと考えること/ものをはっきりと子供に示し、思考のプロセスをも教えながら、やがては独立した自分自身の思考が展開できる存在に育てていこうとすることです。機能水準の低い子供の場合には特に、変容を促進する「媒介」の知識と方法をもつ大人の質的にも量的にも豊かな介在が必要です。
ここで紹介する「家庭事例」はフォイヤーシュタイン・ラーニング・センターが主催したワークショップで、イスラエルやアメリカから来日した講師から「媒介学習体験」の訓練を受けたお母さんたちが、子供との日常生活のなかで取り組んだ現在進行形の記録です。
フォイヤーシュタイン・プログラムには、特別に考案された教材がありますが、ここ
で紹介する事例はこれらの教材の理論的な基礎となっている認知機能のひとつ、「自
発的な比較行動」や、あるいは「比較行動を育てながら、基本的な認知操作である、
「分類化」、あるいは、自己決定のできる自立した存在へと導く「行動の選択」など
を生活の中で媒介していった記録です。
「大きい・小さい」という概念が子供の中に
育ったそれだけで子供が言語活動に見せた変化や、ふだんのお買い物という行動か
ら、「比較、空間知覚、分類化」などの機能を育てたり、お母さんの即興的なお芝居
で、子供やる気や、理解を助けながら、「因果関係」の把握、という論理的思考の入
り口に導いていくお母さんたちの取り組みは素晴らしいです。子供が新しい行動や思
考方法を獲得するたびに、大人も子供も大きな感動を得るのです。